トトガノート

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Tag:秘蔵宝鑰

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「空海の夢」(春秋社)
「24.憂国公子と玄関法師」を読みました。

天長七年(830年)に『秘密曼荼羅十住心論』十巻とその要約版ともいうべき『秘蔵宝鑰』三巻を淳和天皇に献上しています。要約版にのみ挿入されている部分が「憂国公子と玄関法師の十四問答」という対話篇だそうです。

天皇に献上するものであるから、ラディカルな書き方はしていないけれども、空海の国家観がうかがえるそうです。

《以下引用》
空海がここでみせた国家観はランケやブルンチュリ以降の近代国家学を先取りしているようなところがある。みごとに国家観念のレベルを個我観念のレベルの集積としてとらえているからである。

個人の自由の成立の上に構える国家が近代国家というものであるが、それは個人主義的放縦の度合に応じて乱脈を余儀なくされる。空海はそのことを早くも平安朝の古代律令国家の末路のうちにとらえていたようだった。…王法をそのまま説くことなく、むしろ個我からの脱出をこそ説いて、はるかに密法を上においた。「国家―個我」という一直線上の紐帯を、「無我―国家」という順にきりかえてしまったのである。周知のようにマルクスはそうは考えなかった。「国家―個我」という軸線そのままにひっくりかえそうとした。…
《引用終わり》

仏教で国家を考えるということは、そういうことなのですね…

儒教は国家とか政治のあり方を説いていて政治学のようなものかと思います。社会が対象であり、国家の存在が前提にあります。しかし、仏教はもっと普遍的・根源的な思想です。科学に近い側面があります。国家の有無など必要ありません。だから、聖徳太子以来目指している「仏教国家」というものがピンときませんでした。

近代国家よりも進んだ考えのように思います。

《以下引用》
もうひとつ注目しておいてよいことがあるとおもわれる。空海は「第四唯蘊無我心」のうちに国家を説くかたわら、わが中世に流行する出家遁世の先駆をなしていたということだ。鴨長明や兼好法師、さらには西行におよぶ出家遁世の精神は、実はこの憂国公子と玄関法師の問答からも出来していたのである。

これを「無常の自覚」と言ってもよいかとおもう。すでに聖徳太子の「世間虚仮・唯仏是真」に発している日本の無常観ではあるが、これを思想の潮流にまでもちこんだのは弘法大師空海が最初ではなかったろうか。もし聖徳太子に仏教ニヒリズムか日本ニヒリズムの萌芽を認めたいというなら、私は空海こそその深化をもたらしたのだと言いたい。
《引用終わり》


《つづく》
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「空海の夢」(春秋社)
「20.六塵はよく溺るる海」を読みました。

《以下引用》
われわれがつねに考えなければならない最も怖るべき問題のひとつは、「生命は生命を食べて生きている」ということにある。この怖るべき事実から唯一のがれられるのはわずかに緑色植物の一群だけである。
《引用終わり》

「生命とは何か」という問いには完全ではないながらも、科学で何らかの説明ができるようにはなってきています。しかしながら、「生命が生命を食べる矛盾」には何ら答えが見つかってはいません。

《以下引用》
…「生命が生命を食べる矛盾」は、ひとり人間のみが尊大な善人面をしていられないことを、また悪人面をしてもいられないことを、生命史の奥から告発しているかのようなのである。
《引用終わり》

人は何かを食べなければ生きられません。何かとは他の生き物。他の生き物を殺し続けながら、私たちは生きていかなければならない。

《以下引用》
…矛盾を犯してまで前進する生物史は、またあくなき冒険の歴史でもある。摂取と排泄の爆発、海中から淡水への前進、「性」の発現、水生から陸生への転換、地上から空中への飛翔、樹上から地上への逆退転――。生物史はその矛盾と冒険に充ちたプロセスにおいて、信じられないほど多くの発明をし、また失敗をくりかえしてきたあげく、結局のところはふたつの相反する特徴を残すことになったのである。

第一にはそれらの生物が共存するということ、第二にはそれらの生物は共食するということだった。第一の特徴が認められないかぎり第二の特徴はなく、第二の特徴が認められないかぎり第一の特徴も成立しない。
《引用終わり》

私たちは他の生物を殺さない限り生きられない。そして、他の生物を全て殺してしまったら、私たちも生きられない。ウイルスのモラルにも似た微妙な関係。

かの名文「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」には、この矛盾が含まれているということのようです。

『秘蔵宝鑰』を読むとき、この章を再読したいと思います。

《つづく》
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