私は仕事でアメリカに行ったことがある。記憶の整理をしていて思い出した。

日本が大きく経済成長したために、こっちに仕事を回せという圧力がかかったらしい。いわゆる「ジャパンバッシング」である。通産省から私が勤めていた会社に指示があり、たまたま私が担当していた仕事がアメリカの会社に依頼されることになった。仕事の内容を説明するため、渡米ということになった。

入社数年にして米国出張。しかもゲスト待遇。こんなことは最初で最後かもしれない。一生分の運を使い切った感じだ。

初めての国際便。隣の席には白人の男性が座っていた。成田からJFKまでは12時間。トイレに行く時に、隣の彼は私のスリッパを履いて行った。運を使い切ったために見舞われた最初の不運である。

こういうことは最初が肝心だ。彼が戻ってくるなり、私は言った。

「これは私の初めての海外出張です。出発する時の先輩の第一のアドバイスは、機内に備え付けのスリッパをホテルまで持って行きなさいということでした。ベッドに入るまで靴を履いているような習慣が我々日本人には無いから、部屋ではそのスリッパを使うととても快適だと教えられたのです。どうか、そのスリッパを返してください。」という意味を込めて…Excuse me. It's mine.

彼は…
「そんな大切なスリッパだとは知らなかった。さっきは急いでいたし、暗かったし、足元に有ったので、ついあなたのスリッパを履いてしまった。すまなかった。これは返すよ。」という意味を込めて…Oh! と言った。

それから数時間、着陸するまで私たちは一言も言葉を交わさなかった。着陸が終わって飛行機が滑走路をゆっくりと移動している時、彼は言った。

〇△◇×÷%☆◎CNN▽⇔※♂‰∩@〇△◇×÷%☆◎Taiso no Rei♂‰∩@〇△◇×÷%.

「私はCNNの記者だ。日本には大喪の礼の取材に行ってたんだ。」と言っていることがすぐに分かった。それは平成元年2月下旬のことだったのだ。

窓の外、ニューヨークの景色を指差して、彼は続けた。
×÷%〇△◇×÷%☆◎〇△◇×÷%☆ your first visit ♂‰∩@〇△◇×÷%△◇×÷%☆Liberty◎▽⇔※♂‰∩@.

「初めてらしいから教えてあげよう。あそこに小さく見える緑色の物体が自由の女神だ。」と言っていることがすぐに分かった。

「なるほど。最初に目にするアメリカの景色として、そんな歴史的な建造物を見ることができて私は嬉しい。でも、教えてもらわないと分からなかった。こんなに小さく見えるなんて、本当にニューヨークは大きな都市だ。あなたの隣に座ることができて本当に良かった。ありがとう!」という意味を込めて…Oh! と言った。

このように、滞米期間中、私は一言一言に多くの意味を乗せて英会話を楽しんだ。現地スタッフの一人からは、
Your English is very good! But I can't understand. Hahahaha!
という賛辞を頂いた。