ウメさんに最初に灸をした時、初めてのお客さんにいつもするように「熱いですか?」と尋ねた。
「そりゃあ、ちょっとは熱いけど、昔のお灸ほどじゃあないね〜」
私が使っているお灸は、もぐさを直接皮膚に置くタイプではないので、当然直接置くタイプよりは熱くないはずだ。
「そうですか」と、私は軽く受け流した。しかし、次の言葉には施術の手も止まってしまった。
「火傷が半年くらいは治らなかったからね〜」
「どういうことですか?」と聞かずにはいられなかった。
東京(もっと詳しい地名をおっしゃったが忘れた)に、とても評判の鍼灸院があって、肩こりがひどかったので行ってみたとのこと。二十代の頃だった。
治療室の壁につかまる棒が付いていて、患者さんはそこにつかまって並んでいる。そうすると、先生が患部にもぐさをのせて片っ端から火をつけていく。火が燃え進んでいくと、みんな悲鳴を上げて悶え苦しむ。それに耐えるために棒につかまる。
お灸の跡は酷い火傷になる。そこに治療院特製の膏薬を貼る。火傷が治るまで鍼灸院に通い、膏薬を取り換えてもらう…という治療らしい。
「化膿したりしませんでしたか?」
「したよ。膿が出てくるから、それを取ってから膏薬を貼ってもらったんだよ。」
打膿灸だ…。学校で習った。今やったら誰も来なくなる。というより、裁判沙汰だ。
「そこに跡があるだろ?」と言われた。
直径3cmくらいの丸い傷痕のようなものが、肩の左右に一つずつあった。色は周囲の皮膚と同じ色だったから、そんなに目立つものではなかったが、その存在には気づいていた。でも、すぐに「これは何の傷痕ですか?」と無邪気に聞くのは、流石の私にもできなかっただけだ。
「あー、これですか。」と、気づかなかったふりをした。
でも、これは聞かずにいられなかった。
「それから、肩こりはしなかったですか?」
「そんな、肩こりどころじゃなかったよ。」と言って、ウメさんは笑った。
「確かにそうですよね。」と言って、私も笑った。
〈つづく〉
〔「訪問日記」一覧〕
◆◆◆鍼灸治療室.トガシ◆山形県東根市◆◆◆
「そりゃあ、ちょっとは熱いけど、昔のお灸ほどじゃあないね〜」
私が使っているお灸は、もぐさを直接皮膚に置くタイプではないので、当然直接置くタイプよりは熱くないはずだ。
「そうですか」と、私は軽く受け流した。しかし、次の言葉には施術の手も止まってしまった。
「火傷が半年くらいは治らなかったからね〜」
「どういうことですか?」と聞かずにはいられなかった。
東京(もっと詳しい地名をおっしゃったが忘れた)に、とても評判の鍼灸院があって、肩こりがひどかったので行ってみたとのこと。二十代の頃だった。
治療室の壁につかまる棒が付いていて、患者さんはそこにつかまって並んでいる。そうすると、先生が患部にもぐさをのせて片っ端から火をつけていく。火が燃え進んでいくと、みんな悲鳴を上げて悶え苦しむ。それに耐えるために棒につかまる。
お灸の跡は酷い火傷になる。そこに治療院特製の膏薬を貼る。火傷が治るまで鍼灸院に通い、膏薬を取り換えてもらう…という治療らしい。
「化膿したりしませんでしたか?」
「したよ。膿が出てくるから、それを取ってから膏薬を貼ってもらったんだよ。」
打膿灸だ…。学校で習った。今やったら誰も来なくなる。というより、裁判沙汰だ。
「そこに跡があるだろ?」と言われた。
直径3cmくらいの丸い傷痕のようなものが、肩の左右に一つずつあった。色は周囲の皮膚と同じ色だったから、そんなに目立つものではなかったが、その存在には気づいていた。でも、すぐに「これは何の傷痕ですか?」と無邪気に聞くのは、流石の私にもできなかっただけだ。
「あー、これですか。」と、気づかなかったふりをした。
でも、これは聞かずにいられなかった。
「それから、肩こりはしなかったですか?」
「そんな、肩こりどころじゃなかったよ。」と言って、ウメさんは笑った。
「確かにそうですよね。」と言って、私も笑った。
〈つづく〉
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