栗原さんの紹介で神田ウメさんのお宅に初めて伺ったとき、もう一人、お婆ちゃんがいた。それがタケさん、ウメさんのお姉さんである。ウメさんの家のすぐ近くに住んでいるので、ウメさんの所には、シルバーカー(老人用手押し車、タケさんはベンツと呼んでいた)を押して、毎日のように訪れていた。

このお婆さん、見たことがある…。

私も半世紀生きているので、どんな人に会っても、前に一度会ったことがあるような感じがする。要するに、今まで会った誰かさんの中に必ず似た人がいるということだ。だから、「以前、どこかで会いましたよね?」なんてことは、かなり確信があっても言わないことにしている。変な下心があると誤解されたら面倒だから。

しかし、タケさんくらいの年齢になると皆かなり個性的になるので、見間違えることはない。人間の範疇を広げるべく果敢に攻めているような雰囲気さえある。私がここまで失礼な言い方をするのは、それに嫌悪は抱いていないからだ。ゆるキャラのような…そう、カワイイのである。

タケさんの家とウメさんの家を結ぶ区間、ここは私がよく行き来するエリアである。そこで、立ち話をしているタケさんを頻繁に見かける。立ち話と言っても、タケさんはベンツに腰かけている。タケさんと道でバッタリ出くわして話しかけられた相手は立っている。ひたすら立って話している。もっと、正確に言えば、タケさんが話しているのを聞いている。立ち聞きだ。だから、どちらも立ち話には該当しないのだけれど…。

タケさんが話すのを至近距離で初めて見て、驚いた。話が途切れない。コンスタントにずっと話している。鳥と同じ呼吸器を持っているのではないかと思うくらい、ブレスの痕跡が見当たらない。

これはスゴイことである。90歳近い年齢の筈なのに、呼吸器はずっと酸素を供給し続け、頭脳はずっと話題を供給し続けて、このハードユースに耐えているのだから。

「そんなに話せるのは頭がしっかりしているからですね…」という一言を、絶え間ない話の間にはさむのに、かなりの時間が必要だった。

〈つづく〉
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