私は、一時期、お客様にセラバンドを2mくらいずつカットして、プレゼントしていたことがある。

当時は今ほど、お年寄りに運動を薦めるという雰囲気は無かった。婦人会などでは、ペットボトルに米などを入れた物を持って踊るのを広めようとしていたかもしれない。でも、そういう活動に参加している人は元々活動的な人で、本当に運動をしなければいけない人は「諦めること」を決め込んでいた。

どちらかと言えば、私のお客様はこういう悟りに達した境地の人が多かった。体の衰えを感じた時に運動ではなく治療を考えるのは、方向性として他力本願である。その辺の意識改革を目指して、「黄色いハンカチ」のような「黄色いゴムバンド」をお客様に配布して、運動を薦めていた。

筋力低下を抑えるには負荷をかける必要があるけれども、手軽な物として思い浮かぶダンベルでさえ落とすと危険である。最も安全な筋トレ手段はゴムバンドしかない!そんなふうな説明をして回っていた。

それでも、本当にゴムバンドで運動してくれた人はどれくらいいたのか…。

「これ、使ってるんだよ」と言ってくれたのは、実は秋葉さんただ一人だった。

見ると、黄色いゴムバンドが座椅子にくくりつけてあった。彼は座りながら、手で引っ張ってみせてくれた。

嬉しそうだった。そして、私も嬉しかった。

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