「空海の風景」(中公文庫)
「上巻の八」を読みました。
空海は、遣唐使という形で、7〜9年の空白の中から、突如現れます。
《以下引用》…
かれが正規に得度をして官僧になるのは、遣唐使船に乗る前年である。このころになってようやく僧になる自信を得たかとおもえる。禁欲についての自信を得たということではなく、禁欲という次元からはるかに飛翔し、欲望を絶対肯定する思想体系を、雑密を純化することによってかれながらに打ち樹てることができたときに、僧になってもいいと思ったにちがいない。
しかし、その思想体系は唐にゆかねば日本において公認されないのである。唐の長安には、インドの純密の正系を伝える人物がいるはずであった。多くの未移入の経典をもちかえることも必要であり、あるいはまた密教が冥々のうちに宇宙の意思と交感する以上、どういう所作をすればよいかということを知る必要もあった。さらには所作のための密具も必要であるであろう。それらを持ちかえらねばならないし、それ以上に必要なのは、空海自身がインド密教の伝承を長安において正統に受けることであった。
もしそれをしなければ、空海はただの官僧にされてしまうであろう。
…
空海はそういう官僧の世界からのがれたいと思っていたし、げんにそれを避けるために得度を遅らせていたのであろう。空海は、かれが展開させようとする野望的世界をもっている。…そのためにはみずから密教を創始せねばならない。しかしそれを日本に居っぱなしでおこなうことはできなかった。
《引用終わり》
遣唐使は、国産の船を、国内の操船技術で動かしていかねばならず、非常に危険なものでした。最低限、死ぬ覚悟は必要で、それだけのリスクを冒してでも唐に渡りたいという人が希望したわけです。行ける人数は今の宇宙飛行士よりも多いでしょうが、生還の確立はずっと低かったことでしょう。
最澄を乗せた遣唐使船は、暴風に遭い、一度断念しています。再度出航する機会を、空海は狙って、得度し、乗船の資格を得るための運動を行ったと司馬遼太郎は推理しています。
《以下引用》
…最澄は、それだけ大仕事をするための一団を組んでいるのである。
最澄自身は還学生といういわば視察者として短期で帰ってくるが、留学生という長期滞在者も連れ、そのうえ、最澄が唐語にくらいというので通訳までついているのである。
…
《引用終わり》
空海の立場に比べると、かなり恵まれています。こういう人には、どうしても応援したくなくなります。最澄自身が望んでそうなったわけではないということですが…。
《つづく》
「上巻の八」を読みました。
空海は、遣唐使という形で、7〜9年の空白の中から、突如現れます。
《以下引用》…
かれが正規に得度をして官僧になるのは、遣唐使船に乗る前年である。このころになってようやく僧になる自信を得たかとおもえる。禁欲についての自信を得たということではなく、禁欲という次元からはるかに飛翔し、欲望を絶対肯定する思想体系を、雑密を純化することによってかれながらに打ち樹てることができたときに、僧になってもいいと思ったにちがいない。
しかし、その思想体系は唐にゆかねば日本において公認されないのである。唐の長安には、インドの純密の正系を伝える人物がいるはずであった。多くの未移入の経典をもちかえることも必要であり、あるいはまた密教が冥々のうちに宇宙の意思と交感する以上、どういう所作をすればよいかということを知る必要もあった。さらには所作のための密具も必要であるであろう。それらを持ちかえらねばならないし、それ以上に必要なのは、空海自身がインド密教の伝承を長安において正統に受けることであった。
もしそれをしなければ、空海はただの官僧にされてしまうであろう。
…
空海はそういう官僧の世界からのがれたいと思っていたし、げんにそれを避けるために得度を遅らせていたのであろう。空海は、かれが展開させようとする野望的世界をもっている。…そのためにはみずから密教を創始せねばならない。しかしそれを日本に居っぱなしでおこなうことはできなかった。
《引用終わり》
遣唐使は、国産の船を、国内の操船技術で動かしていかねばならず、非常に危険なものでした。最低限、死ぬ覚悟は必要で、それだけのリスクを冒してでも唐に渡りたいという人が希望したわけです。行ける人数は今の宇宙飛行士よりも多いでしょうが、生還の確立はずっと低かったことでしょう。
最澄を乗せた遣唐使船は、暴風に遭い、一度断念しています。再度出航する機会を、空海は狙って、得度し、乗船の資格を得るための運動を行ったと司馬遼太郎は推理しています。
《以下引用》
…最澄は、それだけ大仕事をするための一団を組んでいるのである。
最澄自身は還学生といういわば視察者として短期で帰ってくるが、留学生という長期滞在者も連れ、そのうえ、最澄が唐語にくらいというので通訳までついているのである。
…
《引用終わり》
空海の立場に比べると、かなり恵まれています。こういう人には、どうしても応援したくなくなります。最澄自身が望んでそうなったわけではないということですが…。
《つづく》
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