世紀末のある日、T君と僕は街頭でオーラ写真の撮影をやっていました。セガのオーラ写真倶楽部も当時ありましたが、わたしたちが使った機械はアメリカ製で、ポラロイド写真として出てくるものでした。

あるお店の前を借りて、そこで2週間ばかり行いました。T君は怪しい会合には必ず現れたので、怪しい情報の交換はよくしていましたが、普段はどこにいるか分からない人で、電話をかければ「お客様の都合で・・・」と録音が流れるし、こちらから連絡は取れませんでした。だから、毎日、一日中いっしょにいたこの期間に、初めて彼は自分の人生について語ったのでした。

彼は私立のそれなりの大学を卒業していて、僕が住んでいたアパートの一階にテナントで入っていた会社に勤めていたこともありました。どこか見覚えのある顔だったという謎が解けて、不思議な縁を感じました。それ以外にいろいろな職を転々としていたのですが、秘密結社に属していたこともあったというのです。

ある山奥に潜んでいて、装甲車なども持っている組織だというのです。「オウムじゃないの?」と聞きましたが、それは否定しました。「でも、これ以上は言えない。喋ったことが分かったら、狙われるかもしれない。」

僕のおごりの晩御飯を食べながら、彼の身の上話はますます謎を呼んでいきました。「お金は天下の回りもの。人に施すことで、自分にいい形で必ず返って来るんだよ。だから、お金が入ったら、人のためにすぐ使わないとダメなんだよ。今日はごちそうさま。また、明日ね。」

彼にはおごってもらうことも何度かありましたが、家賃と電話代くらいは払うように言っても聞いてくれませんでした。彼は今でもそんな暮らしをしているのか・・・いい形で人に施した分が返ってきていればいいのですが。


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