トトガノート

「鍼灸治療室.トガシ」と「公文式小林教室」と「その他もろもろ」の情報を載せています。

Category:★鍼灸治療室トガシ > はりきゅう日記




「明日、父の告別式なのですが、腰が痛くて…」と電話をいただいた。

悲しい報せを聞いた人たちが、不規則に、次々に訪れる。喪主ともなれば、ただでさえ悲しいのに、心休まる暇が無い。他の家族が接客する家の奥で、静かに施術が始まった。

クライアントは3月いっぱいで会社を定年退職したと言う。今は、8月。現代ではまだまだ若い年代に属する筈だが、腰が曲がっている。上半身が水平と言ったら言い過ぎだが、最近あまり見かけないくらいに曲がっている。

「腰はいつぐらいから曲がっていますか?」と尋ねると、
「会社を辞めて4月から畑をやらされました。それからですかね〜。(亡くなった)父に厳しく監督されて、休む暇なく働かされたんです(笑)」

「うつ伏せにはなれますか?」
「ええ」と言って、彼は難なくうつ伏せになった。身のこなしは悪くない。ベッドの上では腰は真っ直ぐになっている。腰椎の変形は無いようだ。

その時、チラッと手が震えているのが見えた。ひょっとして…
「何か治療中の病気はありませんか?」
「パーキンソン病と言われてます。」
やっぱり、そうか。気づくのが遅かった。プロとしては失格!でも、すぐ免許取消になるわけではないので治療を続行…。

背中の凝り具合を触診しながら、手元のタブレットでパーキンソン病の論文を検索。そこで目を引いたのがこの論文。異常な筋緊張が立位姿勢を異常にするとあり、異常な筋緊張を起こす筋肉として、斜角筋群,大胸筋,腹直筋,大腰筋,ハムストリングス,下腿三頭筋が挙げてある。論文では、BOTOX(ボツリヌス菌の毒)を注射して筋緊張を麻痺させ、立位姿勢の異常を改善させている。

さて、目の前のクライアントはベッドの上に寝ている。ゆえに異常な筋緊張は起きていない。それでも腓腹筋には硬結が見られ、小刻みに震えている。

私は論文の内容を話し、同様の治療が受けられるかどうか主治医に相談することを薦めた。

そして、異常な立位姿勢のために疲れ切っている腰の筋肉に鍼と灸を行った。でも、これは対症療法。根本から改善する手立ても講じなければならない。

パーキンソン病の根本はドーパミンの不足。主治医から薬には処方されているが、ドーパミンが増えるライフスタイルを提案することはできるはずだ。ドーパミンは「快感や多幸感、意欲、運動などの機能を司る神経伝達物質。欲求が満たされたとき、あるいは満たされることがわかったときに活性化し、快感の感覚を与える「報酬系」ホルモンである」

「何か趣味はありませんか?」と尋ねてはみたが、答えは予想できた。この国で個性が大切という教育が行われ出したのは私たちよりも後の世代。このクライアントは私より上の世代だし、亡くなられたお父さんは厳しい人だったようだ。

「何もないですね〜」
「そうですよね〜。私たちは変な道楽は持たないように教育されましたからね(笑)」

さらに批判を恐れずに続けた。
「うまい具合にと言っては語弊があるのですが、怒る人も居なくなったことですし、何か道楽を見つけましょう。どうしてもあれがやりたいとか、どうしてもあれが欲しいとか、そういうものを。そして、会社を終えた後の第二の人生を楽しみましょう!」

そして、この家に来てから気になっていたことを尋ねてみた。この家の壁には書道の作品が何点も貼ってあったのだ。更に書棚には、各種資格試験のテキスト、美術品や工芸品の写真集、その鑑定法の本、将棋・囲碁などなど…様々なジャンルの本が並んでいる。
「こちらの書道はだれが書かれたのですが?」「息子です。」
「この書棚も?」「はい、息子のです。」

「息子さんて、ドーパミンの塊のような方ですね!」
「ハハハハハ。これはこれで困ったものですが。」

「でも、ここは病気が治るまで、息子さんのようになってみましょう!爺さんが亡くなったら、人が変わったみたいだって言われるくらいに(笑)。今度は息子さんを困らせてやりましょう!」

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五十肩では開業当初から厄介な思いをした。

専門学校では、「五十肩というのは正式な名前ではないから使ってはいけない。素人だとバカにされる。肩関節周囲炎と言いなさい。」と習った。なので、「これは五十肩ですか?」というクライアントからの問いに、開業当初はひたすら「違います!これは肩関節周囲炎です!」と言い続けた。

しばらくして、あるクライアントから「先生は五十肩じゃないと言ったけど、整形外科では五十肩だって言われたよぉ〜」と指摘された。私は「開業したてで五十肩の診断もできない先生」ということになっていることに気づかされた。

NHKの「きょうの健康」でも「五十肩」という名前を使っていることに気づき、私も五十肩という言葉を正式に採用することにした。

その後も悩みは尽きなかった。「五十肩ですね」と言うと「四十肩とどう違うんですか?」と尋ねられたり、「まだ五十になってないのに…」と強烈に落胆されたり、「七十過ぎたのに?」と大喜びされたり…

今回のクライアントは、その最後のパターン。七十歳を過ぎたのに整形外科で五十肩と言われた。しかし、彼女は大喜びはしていなかった。

3カ月前から両肩(よく調べてみると肩ではなく三角筋)が痛い。腕を上に挙げることはできるが、結帯動作(腰の後ろに手を回す動作)は痛くてできない。ひどい時には、トイレで用を済ませた後にズボンを上げることができないのでオムツをはいていたこともある。

最近、両膝の痛みも気になり出した。しかも、立ち上がる時にめまいがするので何かにつかまりたいのだが、肩が痛いのでそれもなかなかできない。寝返りを打つのも大変になってきている。気持ちも落ち込んで笑顔も無くなってきたのを、友人が見るに見かねて私を紹介して下さったとのこと。この友人というのは、私のクライアントである。

「早く良くなりたいので、明日も来て下さい。」と最初におっしゃったので、「では、今日は軽めの治療にして様子を見てみましょう。」と申し上げた。「先週、整体で揉んでもらったら、かえって具合が悪くなった」ともおっしゃっていたし。

翌日うかがってみると、施術後はとても楽だったとのこと。一晩寝て今朝起きた時は肩の痛みは元に戻った感じがしたが、今は痛くない。私の施術が合うようなので、強めの治療に切り替えて、週に2回のペースで治療を続けることになった。

まず、改善したのはめまいだった。首回りの血行不良が原因だったのだろう。これで、彼女の気持ちはだいぶ明るくなったようだった。

「もう、立てなくなるんだと思ってました。歳だから良くなることはないだろうと…」
「歳って、まだ70歳ですよね?今の70歳は昔の50歳くらいですよ。だから五十肩になったんでしょう!」五十肩という言葉は、こんなふうに使うためにあるのだ。

「たぶん、良くなるのは時間の問題だと思いますよ。症状で一番厄介だと思ってたのはめまいだったんですけど、それが治っちゃいましたから。」
私は、そう思う根拠を説明した。

まず、肩の痛みは関節ではなく、筋肉(三角筋)のコリが原因と思われるので、今の治療を続ければすぐに良くなるだろう。

次に、膝の関節は一時的な痛みで、よくある変形性膝関節症ではないと思われる。膝蓋骨のスライドもスムーズだし…。

おしゃべりなのでなかなかそうは見えないのだが、彼女は割とクヨクヨするタイプのようだった。
「絶対に年内には良くなって、来年はどこに旅行に行こうかな…とか、何して遊ぼうかなとか、考えるくらいじゃないとダメですよ。」と言ったら、
「○○さん(私を紹介してくれた友人)からも同じようなこと言われた!(笑)」

それからというもの、施術するたびに彼女は明るさを取り戻していった。
「最近、表情が明るくなったって言われるのよ。」と言ったのは、3週間目くらいの頃。

そして…
「完全に痛みが取れたと言う訳じゃないけど、朝起きた時に辛いくらいで後は何とかなりそうだから、ちょっと治療休んでみますね。ダメみたいだったら、すぐに電話しますから。」と彼女が提案したのは、治療開始から35日後。それから、ずっとご無沙汰である。

彼女が元気であることを聞いたのは、それから2カ月後のこと。別なクライアントから。
「昨日、○○さんと八百屋さんで会ったよ。先生から治してもらったって。寝たきりになると思ってたんだけど、助けてもらったって。それは良いんだけど、孫の話とか、親戚の話とか、話が止まらないのよ。立って聞いてるだけで、こっちは大変だったよ。」

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60代男性のクライアント。左膝が痛い。しかし、触察した感じでは関節が悪いようには思えなかった。よくありがちな変形性膝関節症とは何かが違う。いずれにしても関節をよく診てもらうことは必要だ。レントゲン等を使った医師による診断が。

「整形外科で診てもらって下さい。」とお願いしても、接骨院や整体に行ってしまう人が意外に多い。医師とそれ以外の医業類似業者(私も含まれる)とでは、特に法律上、雲泥の差があるのだが、それを知らない人が多いのだ。

医師は最新の検査技術や治療方法を行うことが認められている。だから、私のクライアントがその恩恵に浴することを妨げてはいけない。そういう医師側の法的な優位性を差し引いても、私たちは医師とは違う方法論で診て治すわけだから、違う意見にも耳を傾けるべきである。なぜなら、それが私のクライアントの利益につながるから。

さて、このクライアントは整形外科でレントゲンを撮ってもらい、軟骨が減ってますね〜という診断を受け、ヒアルロン酸の注射もしてもらってきた。幾分楽になったような気はするが、訴える症状は全く変わらなかった。

ゴルフをすると痛くなる。ハーフ回って休憩して、椅子から立ち上がる時に痛み始める。しかし、歩き始めるとそうでもない。帰宅後、椅子に座って立ち上がる時に痛い。自動車から降りる時に痛い。正座もできない。ある程度まで膝を曲げると痛くてそれ以上曲げられない。

本人の分析はこうだ。ゴルフをすると痛くなるのだから、ゴルフの動作に原因があるのは明らかだ。スイングの後半は左に重心が移動するから、膝に負担がかかる。それで関節が痛んでいるのだ。

でも、私には引っ掛かることが一つあった。膝が痛むのが階段を上る時だということ。下る時は何ともないと言う。

膝関節を傷めている人は、大抵これと反対である。上る時は痛くない。下る時は衝撃が膝にもろにかかるから激痛が走る。だから、階段を後ろ向きに降りる人もいるくらいだ。

膝関節は悪くないんじゃないか?

カルテを遡ってみると、2カ月前から、ずっと左大腿の後方内側が黄色にマークされている。半腱様筋と半膜様筋が硬いのだ。この2つの筋肉は股関節伸展の主動作筋であるが、内旋の副動作筋でもある。

痛みを発しているのがこの2筋だとすると、階段を上る時(股関節伸展動作)に痛むのは説明がつく。

私は20年ほど前に少しだけやっていたゴルフを思い出して、スイングの格好を何度か繰り返してみた。左大腿に意識を集中して、スイング。また、スイング。

左大腿が内旋している。これだ!これに違いない。

スイングの最後にしっかりと腰を回転させるために、左大腿の2筋に力が入るのだ。だから、ゴルフをするたびに痛くなることも説明がつく。

しかしながら、幸か不幸か、それに気づいたのは初冬。ゴルフはシーズンオフとなった。そして、ひと冬休んだ今では、膝の痛みはすっかり消えている。

これからの変化に注意していこう。

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このクライアントとは長いお付き合い。初めて伺ったのは開業して間もない頃。その後、半年ばかりご無沙汰だったから、リピートはないと諦めていた。

その頃は還暦の少し手前で、バリバリ仕事をされていた。何十年と片頭痛に悩まされていて、市販の頭痛薬は常にハンドバッグに入れているとおっしゃっていた。

医学書では、頭痛は片頭痛・緊張型頭痛・群発型頭痛にきれいに分類され、それぞれに適切な対処法がある。私も開業当時はそういう知識を武装してクライアントに接していた。しかし、今どきその程度の知識を持たない一般人はむしろ珍しい。受け売りの知識をひけらかしてもウンザリされるだけ。自分の苦痛を和らげてくれるのでなければ、医学知識も何の値打もない。

市販の薬ではなく主治医に相談しては?という私の言葉は一蹴された。
「痛くなる前に飲むと効く薬なんて出してよこすんだよ。笑っちゃうよ。薬が本当に効いて痛くならなかったのか、痛くなると思ったけど勘が外れただけなのか、わかんないじゃない?それ考えてると頭痛くなる(笑)」
言われてみれば確かに可笑しい。私も一緒に笑った。

無の境地で触察。首のコリがひどかった。一度の施術では少しの変化しか起こらない。慢性的なコリなのだ。週に一度のペースで、数カ月治療を続けていただいた。

全く指が入らないほどコチコチだった首が、治療を重ねるごとに少しずつ柔らかくなっていった。翌週に伺うと必ずコチコチに戻っていた首が、それほど硬くない日もあるようになってきた。

ある日、「最近、頭痛薬飲んでないんだよ。飲まなくても済むようになってきた。」と嬉しそうに言って下さった。私も嬉しかった。

それから、不定期の治療に移行し、十数年のお付き合いになる。

家業の商売を継いで営業として働いてきた。彼女の営業力は素晴らしい。さらに業種を少しずつ変化させながら、激動の時代を乗り越えてきた。時代を読む力も抜群なのである。

それでも、今回の年末年始は、彼女にしては珍しく仕事の予定を余り入れなかった。
「忙しい日が続いたから、しっかり休もうかと思ってね。」と言っていたのが、師走の30日。
「ずっと家にいるつもりだから、年明け早々またお願いするかもしれないよ。そん時はよろしく。」
と言われ、「良いお年を」と挨拶してきた。

ところが、次に電話を頂いたのは、何と翌日。大晦日の朝だった。「朝起きたら頭がツカツカする」と彼女は表現した。なり始めの施術が肝心と、すぐに電話して下さった。有り難いことである。

首と肩のコリを入念にほぐし、鍼と灸も行った。「昨日は鍼も灸もしませんでしたからね…」と言って、再び「良いお年を」と別れの挨拶。

その次に電話を頂いたのは3日の朝。大晦日は、施術後は調子が良かったが夕方から痛くなり、元日は一日中眠っていた。2日はとても調子が良く、一日中仕事をした。3日の今朝は、またツカツカが再発。割れるように痛い時もある。

首と肩は確かに硬くなっていたが、すぐにほぐれた。ほぐれた後も優しく施術を続けながら、私はあることを思い出した。
「人によって違うんですが、片頭痛は休みの日になると頭痛になって仕事の日には治るという人もいます。○○さんの場合はどうでしたか?」
「そうだね。そういう傾向はあったね…」

そこで…

「しかし、お店をここまで大きくするには大変な苦労があったでしょうね。休むと頭痛になるから、休まず仕事されたんじゃないですか?」と言って、私は彼女の若い頃の苦労などを尋ねてみた。

昔は店が小さかったから来るお客も少ないので、周辺の地域を回って歩いた。山奥の小さな村にも行った。最初は仕事は貰えなくても、定期的に足を運んでいると、待っていてくれる人が出てきた。そこには今でも、どんなに忙しくても行くようにしている。

お風呂に入る時は脱いだ服をきちんとたたんで置くように躾けられていたので温泉でもそうしていたら、思わぬ良縁に恵まれた。後に姑となる人が見ていたのだ。旦那さんはとても優しい人だった。しかも、先見の明のある人だった。今まで取り扱っていた商品に見切りをつけて、別な商品に切り替えたのは旦那さんだった。

あるお客さん、老婆との出会い。自分の好きなものにお金をかける代わりに、他のものには一切お金をかけないという豊かな生き方。

「思えば、いろんな出会いに恵まれた。私は運が良いのよ。」
彼女は自分の仕事と人生を振り返って、そう総括した。

その言葉を口にした頃には、彼女は疲れを癒すために何日も横たわる人では無くなっていた。営業ウーマンとしての目の輝きを取り戻していた。

その後に彼女から電話を頂いたのは、一週間後のことだった。私は経過が気になっていた。
「あれから、いかがでしたか?」
「お陰様で、あれから絶好調で毎日働きました。今日も調子は良いんだけど、明日から出かけるから一回メンテナンスしとこうかと思って。」

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「毎日のように接骨院に行っているんですが、良くならなくて。」と、若い女性の声で電話を頂いた。よくよく聞いたら、腰痛を訴えているのは中学生のお子さんだった。

接骨院が終わる時間に間に合わせたり、ギリギリ間に合ったかと思うとその後の待ち時間が長かったり…。毎日だとしたら、かなり大変な話だ。
「いつくらいからですか?」と尋ねてみると、
「一か月以上経つかもしれませんね。」

仕事から急いで帰って来て接骨院に連れて行っているが、お母さんの方もお子さんの方も時間的にギリギリなので自宅での治療を考えてみたということだった。
「少し遅い時間でも大丈夫なのですか?」と尋ねられたので、
「大丈夫ですよ。何時頃が良いですか?」と答えた。

「8時とかでも?」と、申し訳なさそうに。
「ええ。大丈夫です。10時からとか言われることも有りますよ。」

お子さんは走り高跳びの選手。大会が近いので、練習にも力が入る。腰に痛みを感じているが、休むことはできない。周囲の目があって休みにくいというよりは、自分が休みたくない。

腰の筋肉を触察してみる。少し硬めと言えなくもないが、しなやかで弾力があり、それほど状態が悪いようには思えなかった。

「痛いかな?」親指で強く押して、尋ねてみた。
「はい。」と答えた。でも、淡々としている。シャイな年頃だろうから、我慢しているのか?

押した時の圧痛は、私にとっては最も重要な診断ポイントだ。「痛いですか?」と言葉で尋ねたりはするが、実際は尋ねなくとも体の反応で大体わかる。痛みは、それほどではないと判断した。

「痛みにもいろいろあって、例えば『イタキモチイイ』という言葉があるんだよね。痛いんだけど気持ちいいという状態だね。」
「・・・」

「それから、『押すのやめて下さい!』という状態。押されれば押されるほど痛みが強くなってくるような場合。もっとひどいと『触るな!コノヤロー!』というのもあるんだけど、どれかな?」
「・・・」

「わかんない?でも、『触るな!コノヤロー!』じゃないよね?さっきからずっと黙って押されているから・・・」
「(笑)」

「イタキモ?」
「はい(笑)」

そこで、私は無痛症の話をしてみた。
世の中には全く痛みを感じない人がいる。一見とても幸せなことのように思うかもしれない。しかし、実はとても困ったことなのだ。自分の体が傷ついていることに気づかない。関節がボロボロになるまで走ったり跳ねたりしてしまう。怪我をしても平気。赤ちゃんだったら指を食べてしまったり、目をこすってるうちに失明してしまったり・・・。

「痛いってありがたいことだよね?」と言うと、うつ伏せのまま頷いた。

痛みっていうのは大事なメッセージなんだ。何か悪いことが起きているかもしれませんよというサイン。でも、「痛み=悪いこと」ではない。そこは大事なポイント。

そこで今度はこんな話をしてみた。どこかで聞いたことがあるような無いような…そんな話。

ある王様が戦争をしていました。そこに伝令が駆けつけてきました。「王様、大変です!敵の猛攻撃に遭って我が軍に大きな被害が出ています!」王様はこの報せに怒って、この伝令を斬り捨ててしまいましたとさ。

「痛み」は、この伝令の役割。敵ではなくて大切な味方。しかも、手遅れにならないように、「ひょっとしたらもう少しでヤバいかもしれませんよ」と前もって報せてくれたりする。こんな大切な味方を敵(悪いこと)扱いしたら、バカな王様みたいなことになる。

「押すとイタキモな段階の痛みは、前もって気を利かせて駆けつけてくれた伝令だね。だから、無視していいわけでもないけど、そんなに深刻に考えなくてもいい。」

そんな話をしながらの触察を終えて、鍼と灸。皮内鍼も貼っておいた。

「どうなの?楽になったの?」というお母さんの問いに、シャイな中学生はコクリと頷いた。

その後、このお母さんから電話をいただいたのは一カ月も後のことだった。経過が気になっていたので、着信を見てドキドキした。
「実は、あれから接骨院にもどこにも行ってないんですよ。全く痛くないと言う訳ではないんでしょうけど、支障なく練習ができてます。今度の土日が大会なので、今日は直前のメンテナンスということでお願いしたいんですが・・・。また、8時からで、お願いできますか?」

「はい、もちろんです!」
私はホッとして答えた。

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当院から北に5キロ。それでも結構雪の降り方は違う。少し多めの雪景色の奥に、そのクライアントの家は有った。雪が多い地区ほど除雪をきちんとしている。だから、雪が多い地区で雪に困ったことは開業以来一度もない。逆に、雪の少ない地区で雪に困ることは珍しくない。面白い現象である。

クライアントは80歳。女性。「雑巾をしぼる時、一番痛みを感じます。」「何もしてなくても痛いです。」と彼女は症状を訴えた。「12月に、どっと雪が降った時に除雪をして…痛みはそれからです。」

近くの整形外科には通っている。セレコックス(鎮痛剤)は一日3回服用。その他にロキソニンテープや塗り薬も処方されているが、痒くなるから使っていない。

痛みが気になるので飲み薬はやめられないが、もっときちんと痛みを止めたいので電話下さったということだった。「鍼だと一発で治るんでしょう?」

ばね指や腱鞘炎は使いすぎが原因なので、たとえ鍼といえども除雪を続けるうちは治りにくいだろうことは説明した。ただ、膨らんでいる筈の腱鞘は、施術によって血流が良くなるから楽になるだろう…。

「あ、楽になりました!体も軽くなった。」施術後に、彼女は明るい声で叫んだ。

マッサージのような治療は未経験ということなので、全身の血流改善はかなり爽快なはずだ。

彼女は特におしゃべりと言う印象ではなかったが、自分の境遇を説明するのが上手だった。施術が終わったころには、彼女について随分知っている自分に驚いた。

亡くなった旦那さんのこと、姉妹のこと、自慢のお孫さんのこと…そして、病気の娘さんのこと。

「娘はガンの治療中で、奥で休んでいるんです。」

彼女は2人娘さんがいた。次女の方が数年前にガンで亡くなった。長女は亡くなるまでの間、妹を献身的に看病した。仕事は休むことが多かったので、特に職場の人から言われたわけではなかったが自主的に退職した。皮肉なことに、妹が亡くなって数か月後、自分がガンに罹っていることが分かった。

彼女(クライアント)は、女性限定のスポーツジムに週3回、11月まで通っていた。コーラスもやっていた。雪道が心配なので今は両方とも休んでいる。

「3月から始めるんです。」と彼女は明るく言った。
「3月って…明日じゃないですか?」

「そうです。雪も、これからなら大したことないでしょうから。」
「お友達とのおしゃべりが楽しみですね?」

「そうなんです。どっちも私が年長だから、もうやめようかとも思っているんですけど。」
「いやいや、他の人の励みになりますから。それに次の人が同じ悩みを持つことになりますよ(笑)」

私は、スポーツジムやコーラスを止めた時期と指の痛みを感じた時期が同じであることに気がついた。そして、次回の予約について提案した。こんな提案を毎回していたら商売あがったりなんだけど。

「この次の治療なんですが…どうでしょう。明日から、ジムにコーラスにと忙しくなるわけですから、ちょっと様子を見ては?○○さんが多趣味な方だと分かって安心したんです。

痛みというのは、何もせずに向かい合っているとますます痛くなるものです。ちょうど、アパートの隣の部屋の物音みたいなものです。気になりだすと聞き耳をたてるようになる。そうすると、どんな小さな音でも気になって仕方がなくなります。

これから、除雪をすることもなくなり、その代わりに運動もおしゃべりもということになると、ひとりでに良くなっていくような気がします。

私は残念ながら出張専門なので、予約をしてしまえば、外出できなくなってしまいます。外に出て、いろんな刺激を受けると、痛みも気にならなくなりますよ、きっと。」

すると彼女は答えた。
「娘も外出しなさいって言うんですよ。私のことは良いからって。」

そうだった。娘さんは、妹の看病のために自分の人生を犠牲にしてしまったような人だった。

「娘さんの分も楽しまないといけないですね!」と言ったが、彼女は答えなかった。

顔を見ると、今にも涙がこぼれそうな目で頷いていた。

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この方は90歳のお婆ちゃん。

ある日、電話に出たら、相手の声が聞こえない。「電話が遠いので、もっと大きい声でお願いします!」と言ったが、やはり聞こえないので受話器を置くしかなかった。

それから、かかってくる電話全て相手の声が聞こえないことが分かり、電話機の修理を家族に頼んだ。他の家族はみんなケータイを持っているから、固定電話は使わない。

「どれどれ」と家族が電話機を試してみると、ちゃんと聴こえる。

「婆ちゃんの耳が壊れてるんじゃないの?」と言われ、反対の右耳に受話器を当ててみたらちゃんと聴こえた。右耳は聞こえていたから、左耳が突発性難聴になっているのに気づかなかったのである。

「電話機を疑う前に自分を疑って下さい。」と家族は手厳しい。

「年齢を考えると、耳が聞こえにくいのは珍しくないかと…」と主治医も冷たい。

「とってもがっかりしました。」と、彼女は私に打ち明けた。

「耳が聞こえないのが当たり前だろうからね…」と肩を落とした。

このクライアントには10日に一度訪問している。突発性難聴になったのは5日前。診てみると、左の肩から首・後頭部にかけてとても硬かった。何年来のお付き合いであるが、こんなに凝っているのは初めてだ。

突発性難聴は原因不明とされ、いろいろなケースが考えられる。医師が治療を行う場合は耳の周りの血流を調整する薬が処方されることが多い、と説明した。

そして、それほど時間が経っているわけでもないし、首・後頭部(耳周り)が今までに無いくらい凝っているから、これを解せば可能性はあるかもしれないと伝えた。

入念に手技でコリを取り除いた上で、鍼と灸の施術も行った。

施術後、「何だか良いみたい。」と笑顔。「今度は5日後にしてみようかね?」ということになった。

5日後に伺ってみると、前回施術してから左耳の聴覚がだいぶ戻ったと喜んでくれた。そして、その更に10日後に伺った時には「完全に治った」と言ってくれた。

年寄りの耳が聞こえないのは特段驚くことではない、と言われればそうかもしれない。とは言え、本人にしてみれば、90歳とはいえ、というよりはむしろ、90歳だからこそ、聞こえなくなることは、とてもとてもショックなのである。

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「最近、コムラハギがつるんです。」とクライアントに言われた。

迷わずフクラハギに手を当て、
「あ〜、確かにいつもより硬いですね。」と答えている自分が怖い。

コムラハギって何だ!?

手元のタブレットでカルテを遡ってみる。腓腹筋(フクラハギの筋肉)が黄色に染められ始めたのは約一年前。最初は左足だけ。

「左足がひどいですか?」と聞いてみると、

「そうだね。右足もなるけど左足の方が多いね。左足の方が外反母趾がひどいからだと自分では思ってるんだけど。」

その日の感触も、左足の方が硬い。
「そうですね〜左足の方が頑張ってる感じですね〜」と言って、いつもより入念に「ほぐし」を行った。名付けてコムラハギ療法!

このクライアントは鍼も灸も苦手な人なので、漢方薬を紹介することにした。

「芍薬甘草湯という漢方薬が効くらしいですよ。他のお客様からの情報ですが。」
「しゃくやく…かんぞう…漢方薬は名前が面倒だね…」
漢方薬も苦手らしい。

「68番です。お医者さんも出してくれますよ。」
「68番…すぐ忘れそうだね…」

「じゃあ、テレビで宣伝してるコムレケア。あれも同じですよ。」
「あー!それなら分かる。忘れない。」

2週間後。
「コムレケア、試してみました?」
「飲んでないよ。あれからならなかったもの。」

コムラハギ療法が効いたようだ。

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タブレットを手元に置きながら施術するスタイルを始めて一年になる。

これまでの経過を逐一チェックしながら施術できるので便利だ。

例えば、右肩が3月になると必ず痛くなるとか、本人は先月からの症状と言っているのにその兆候は半年も前から見えていたりとか、いろんなことをその場で発見でき、クライアントと共有できるのはとても良い。

「あそこにあるお店、何ていうんだっけ?定休日は?」とか、「あの建物に行く時は何本目の通りを入るんだっけ?」とか、「あの俳優、何歳なの?」とか、そんな質問に答えることもできる。

「それ、便利だね。」ということで、タブレットを買うことにしたクライアントもいる。

凝っている箇所の記録にはEvernoteを使っていたが、OneNoteに変えてみた。機能も充実してきたし、無料なのが魅力という評判を聞きつけたからだ。

使い方しだいだと思うのだが、カルテの記録はOneNoteの方が使い勝手が良かった。

しかし、pdfの文書内検索とか、カメラで文書を読み取る機能など、欠かせなくなってしまった機能がEvernoteにはある。一本化は難しい。

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久しぶりにインフルエンザで寝込んだ。10年ぶりぐらいだろうか?

予防接種が効く理由はいまだに思い浮かばない。時々刻々姿を変えるウイルスに対して、ワクチンという固定パターンが有意な効力を発揮するとはとても思えない。統計的に効果が確認できているのであれば、きっとプラセボなのだろう。つまり、「インフルエンザにならない!」という決意を忘れた時、発症するのだ。

まる一日寝込んだが、2日目からはリレンザのお蔭か、ケロリ。特効薬の無い普通の風邪の方が性質が悪いんじゃないかと思う。薬はリレンザ以外何も使わなかった。解熱剤も。

熱は自分が出しているのだから、必要なのだ。その信念のもと、しっかり高熱を味わうことにした。そう発想を転換すると、熱も不快ではない。

節々の痛みや悪寒は、「これから暖房の設定を上げます」というサイン。体温を上げられるということは、生命力があるという証拠。ガンは熱に弱いから、潜在するガン細胞も結構死滅してくれたんじゃないだろうか。

一日中眠っていられるのも、熱のおかげ。子どもの送り迎えも解放されるから、本当にゆっくりできた。

今は完全復帰で、営業中。

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