前回は「私、硬いんですかね?」と尋ねられた場合について書いた。これと似て非なるのが「硬いべ?」と尋ねられた場合。

日本語に直すと「硬いでしょ?」という意味になるが、硬くないなんて言わせないぞというニュアンスが強い。

この場合、例えば肩ならば「肩こりのプライド」が隠れている。硬いのは一生懸命生きてきた証なのである。だから、そんなに凝っていないと思っても、「いや、硬いなんてもんじゃないですね!」と言わなければならない。

「そんなでもないですよ」と言っても安心してくれないし、「さっきの人の方が硬いですよ」と言おうものならプライドを傷つけてしまう。私の仕事はコリをほぐすことであって、鼻をへし折ることではない。

人間は自分の平静を保つために自動的に合理化を行う。この場合の最も簡単な合理化の手法は「この治療師はコリが分からない奴だ」というレッテルを貼ることである。評判を落としてまで真実を伝える必要はない。

旅館の一室に呼ばれたことがあった。80歳を越えた女性たちが5,6人。小学校時代の同級生。彼女たちの語らいを聞きながら、一人ずつ施術を行った。

語らっている人たちの一人が「あ、薬飲むの忘れた」と言って、薬の袋を出した。「あ、私も」と言って別の人も。結局、皆が薬をテーブルに並べた。こうなると、「病気のプライド」が出現する。

「あんた、それしか飲んでないの?私はこんなに飲まないといけないよ」
「その薬はこの前まで私も飲んでた。でも、効かなくなったからもっと強いのに変えてもらった」
「この痛み止めで治まってるんだったら、大したことないよ。私なんか…」

かつて机を並べて競い合った仲間が、薬を並べて競い合う。当然、老いた体を並べても競い合いが始まる。
「あんたは背中がまっすぐでいいね」
「あんたは膝がまっすぐじゃないか!」
「コロコロ太ってるね。私なんか体重が減ってきたよ」
「私は痩せられなくて困ってるの!」

そしてついに面倒な事態が発生する。
「先生、この人と私、どっちが凝ってる?」

この場合の最も簡単な対処法は部門別表彰。
「こちらの方は右肩がひどく凝ってますが、お客さんは左肩ですね」
右背中、左背中、右腰、左腰、右臀部、左臀部、右膝、左膝、…。部門はいくらでも設定できるし、それぞれのお客様に小さな差異は必ず見つけることができるし、しかも部門ごとに賞品を準備する必要もない。

それぞれに「たった一つだけの花」を持たせれば良いのである。