「今日、お願いできますか?」と、若い男性の声だった。症状やら何やら、訪問する前に聞きたかったが、電話が鳴ったのは丁度別のクライアントの家の前に着いた瞬間。長電話をするわけにはいかない。住所と名前だけ聞いて、訪問時刻を決めて、そそくさと電話を切った。

その訪問時刻に伺ってみると、30代くらいの男性。左太腿の裏(承扶穴付近)が痛い。膝を伸ばしたまま股関節を曲げると痛みが走る。膝を曲げたままなら痛くない。典型的なヘルニア。こんな教科書通りの人はなかなかいない。

「ヘルニアって言われてますか?」と尋ねると「はい」。

数年前にヘルニアと言われていて、痛くなったり治まったりを繰り返している。先月、MRIを撮ったら、5番に大きなヘルニアが見つかったとのこと。

「一番下ですね。」と言ったら、「6番は無いんですね?」とおっしゃるので、
「腰は5番までです。首は7番まで、胸は12番までとなってます。大抵は(笑)」

会話のレスポンスが速い。目がクリっとしていて、表情の変化も速い。とても話しやすい感じ。

「手術は薦められましたか?」と尋ねたら「手術しなくても治ると言われました。」

「そうですね。なぜか分からないけど、ヘルニアは自然に治ることが分かったので、最近は手術はしないですね。」「そうそう、(主治医の)先生も『なぜか分からないけど』と言ってました。」

「ラッキーなことに、大きいヘルニアの方が治りやすいことが分かっています。ヘルニアは、椎間板が無いはずの所に飛び出して存在するので、白血球が異物と認識して食べるんじゃないかと言われてます。大きい方が異物だとハッキリ分かるから早く食べられるんじゃないかと。」
「(主治医の)先生もそう言ってました。」

「コルセットとかもやってるんですか?」
「はい、仕事の時は。そうじゃない時はしない方が良いんですよね?筋力が弱くなるから。」

「そうです!主治医の先生がそう説明されたんですね?」
「ええ。」

「良い先生ですね。なかなかそこまで説明して下さる先生が少ないみたいで、風呂に入る時以外はコルセットは外さないという方が結構いらっしゃるんですよね。寝ている時なんか意味が無いと思うんですが、お守りみたいな感覚なんでしょうかね…主治医の先生はどこの先生ですか?話が合いそうです(笑)」
「実は、こっちには今住んでないんですよ。お盆で帰省中なんです。かかっているのはあっちの先生でして。痛み止めとして飲み薬と座薬と両方もらっているんですが、昨日から座薬も効かなくなってきまして。鍼はどうかなと思ったのでした。」

触察してみると、腰の筋肉が非常に硬い。痛いのは太腿だけれども、痛みの原因はそこにはいない。腰に鍼をして硬い筋肉をほぐし、承扶穴付近には皮内鍼で痛みを抑えることにした。

腰の筋肉は硬く、鍼がなかなか入らなかった。しかも、筋肉の反応がいい。鍼を進めるごとに筋肉が伸縮を繰り返し、鍼先を確かめているみたいだ。鍼を抜いてみると、案の定、鍼は全部曲がっていた。この筋肉の反応の良さが、椎間板を潰してしまったのかもしれない…。

「お酒は飲みますか?」と尋ねると「ほとんど飲みません。必要なときしか。」

「お酒を毎日飲む人だと痛み止めの効きが悪いという事があるんですが、そうではないんですね。ずっと飲んでいるから効かなくなってきたということでしょうね…」
クリっとした目が笑っていた。これも主治医に言われたことらしい。

「こういう場合、痛み止めと鍼を交互に使うことによって、痛み止めの効果を持続させることができます。こちらにはいつまでいらっしゃいますか?」
「明日帰ります(苦笑)」

「では、鍼が合うようでしたら、あちらで鍼治療を受けてみて下さい(苦笑)」

クリっとした目が笑っていた。

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