「足が痛くて歩けないんです。」と、そのクライアントは電話で訴えた。

足と言っても膝なのか、そうじゃないのか…歩けないと言っても立つことはできるのかどうか…いろいろ聞きたかったが、
「痛くて我慢できないので、なるべく早く来てください!」
ということだったので、早速伺うことにした。

玄関で「ごめんください!」と言うと、「はい!」という声がして、お婆さんが出て来てくれた。この人がクライアントだった。膝をなるべく曲げないようにしたぎこちない歩き方ではあるが、歩いていた。

一歩も歩けない訳ではないようだ…。

症状を伺うと、
「とにかく痛くて痛くて…足も腰も手も」とおっしゃる。首と腰の手術を受けているようだ。脇で聴いていた旦那さんは几帳面な性格のようで、奥さんの手術歴を書いたメモを私に見せてくれた。

それによると、10年ほど前に腰の手術、5年ほどの前に首の手術をした。何れも狭窄症らしい。しかし、痛みが改善することは無かった。整形外科には今も通院していて、痛み止めや貼薬(痛み止め)をもらっている。内科医からは、血圧の薬と睡眠導入剤。

「とにかく、何してもダメなんだな…。医者は良くしてあげようと思って手術してくれたんだろうけど、変わり無く痛いんだ。失敗したってことだろうな。○○さんは、あなたの治療で、立てないのが一か月で治ったって聞いたから、頼んでみたんです。この痛みが無くなったら、もう天にも昇る気持ちだよ!」

○○さんは、確かに私が一年前に治療して、一か月ほどで劇的に良くなったクライアント。しかし、一見症状は同じに見えても中味は一人一人全然違うので、今後の経過を予言することはできない旨を伝えた。実際、○○さんとこのクライアントの共通点は「痛い」ということだけで、場所も程度も微妙に違うし、手術歴は全く異なる。要するに、共通点は皆無と言って良い。
「○○さんは、私ほど酷くはなかったんだろうね…」心なしか自慢げに聞こえた。

「鍼治療は経験ありますか?」と尋ねてみると、前にやってもらったことがあるけど全然効果が無かったとのこと。そして、いろいろな治療を試した話をしてくれた。口に指を突っ込んでくる中国式(?)の治療法、たくさんのロウソクを灯してひたすら呪文を唱える治療法など特殊なものから、整体やカイロ、医師によるブロック注射も経験済み。ただ、結果は全て同じ。「全然効果が無かった!」

「どれも1回しか行かなかったとかじゃないですよね?」と尋ねると、「1回じゃ分からないでしょ!2回は行ったよ。」

2回だけか…。

「全然効果が無かったというのは、痛みが全く変わらなかったということですか?」
「そうだよ。」

「痛みが変わらなかったということですが、痛みって毎日変わるものだと思うんですよ。同じ日でも朝と夜で違いが有ったりします。全く変わらなかったというのは大雑把過ぎるような気がするんですが…(笑)」と、前置きして、

「こういう時は酷くなるとか、こういう時は比較的楽だとか、ありませんか?」と尋ねてみると、

「2分くらい歩くと、もう痛くて歩けなくなる。だから、ちょっと家の周りを一周するだけでも休憩しないといけないんだよ。」とおっしゃるので…

「ひょっとして、歩かないと痛くないんですか?」
「うん」

「えっ!座っていれば痛くないんですか?」
「正座は痛くてできないよ。でも、椅子に座ってたら痛くないよ。痛かったら座ってられないじゃないか!」

「じゃあ、寝てる時も痛くないんですか?」
「だから(笑)。痛かったら、寝てられないじゃないか。」

「そのための睡眠導入剤じゃないんですか?」
「年寄りだから、眠れないだけでしょ。」

「えーっと…じっとしてても痛いのを安静時痛と言いますが、これで悩んでいる人もいっぱいいるんですよ。○○さんは、寝てても痛いので眠れなかったとおっしゃってました。」

「腰を手術したのに痛いなんてことがあるの?」
「狭窄症の手術をしたのに安静時痛が全くないとしたら、大成功かもしれませんね…」

彼女はこれまで、首と腰への施術は、これ以上ひどくなると悪いからという理由でどこの治療院でも拒んできたとのこと。5年以上経過しているし、棘筋への施術は避けるし、背骨をひねったりもしないから心配無用であることを説明し、施術を行った。

2分以上歩いた時の運動時痛は流石に1回の施術で解消することはなかったが、肩や腰がとても軽くなったと喜んで下さった。

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