五十肩では開業当初から厄介な思いをした。

専門学校では、「五十肩というのは正式な名前ではないから使ってはいけない。素人だとバカにされる。肩関節周囲炎と言いなさい。」と習った。なので、「これは五十肩ですか?」というクライアントからの問いに、開業当初はひたすら「違います!これは肩関節周囲炎です!」と言い続けた。

しばらくして、あるクライアントから「先生は五十肩じゃないと言ったけど、整形外科では五十肩だって言われたよぉ〜」と指摘された。私は「開業したてで五十肩の診断もできない先生」ということになっていることに気づかされた。

NHKの「きょうの健康」でも「五十肩」という名前を使っていることに気づき、私も五十肩という言葉を正式に採用することにした。

その後も悩みは尽きなかった。「五十肩ですね」と言うと「四十肩とどう違うんですか?」と尋ねられたり、「まだ五十になってないのに…」と強烈に落胆されたり、「七十過ぎたのに?」と大喜びされたり…

今回のクライアントは、その最後のパターン。七十歳を過ぎたのに整形外科で五十肩と言われた。しかし、彼女は大喜びはしていなかった。

3カ月前から両肩(よく調べてみると肩ではなく三角筋)が痛い。腕を上に挙げることはできるが、結帯動作(腰の後ろに手を回す動作)は痛くてできない。ひどい時には、トイレで用を済ませた後にズボンを上げることができないのでオムツをはいていたこともある。

最近、両膝の痛みも気になり出した。しかも、立ち上がる時にめまいがするので何かにつかまりたいのだが、肩が痛いのでそれもなかなかできない。寝返りを打つのも大変になってきている。気持ちも落ち込んで笑顔も無くなってきたのを、友人が見るに見かねて私を紹介して下さったとのこと。この友人というのは、私のクライアントである。

「早く良くなりたいので、明日も来て下さい。」と最初におっしゃったので、「では、今日は軽めの治療にして様子を見てみましょう。」と申し上げた。「先週、整体で揉んでもらったら、かえって具合が悪くなった」ともおっしゃっていたし。

翌日うかがってみると、施術後はとても楽だったとのこと。一晩寝て今朝起きた時は肩の痛みは元に戻った感じがしたが、今は痛くない。私の施術が合うようなので、強めの治療に切り替えて、週に2回のペースで治療を続けることになった。

まず、改善したのはめまいだった。首回りの血行不良が原因だったのだろう。これで、彼女の気持ちはだいぶ明るくなったようだった。

「もう、立てなくなるんだと思ってました。歳だから良くなることはないだろうと…」
「歳って、まだ70歳ですよね?今の70歳は昔の50歳くらいですよ。だから五十肩になったんでしょう!」五十肩という言葉は、こんなふうに使うためにあるのだ。

「たぶん、良くなるのは時間の問題だと思いますよ。症状で一番厄介だと思ってたのはめまいだったんですけど、それが治っちゃいましたから。」
私は、そう思う根拠を説明した。

まず、肩の痛みは関節ではなく、筋肉(三角筋)のコリが原因と思われるので、今の治療を続ければすぐに良くなるだろう。

次に、膝の関節は一時的な痛みで、よくある変形性膝関節症ではないと思われる。膝蓋骨のスライドもスムーズだし…。

おしゃべりなのでなかなかそうは見えないのだが、彼女は割とクヨクヨするタイプのようだった。
「絶対に年内には良くなって、来年はどこに旅行に行こうかな…とか、何して遊ぼうかなとか、考えるくらいじゃないとダメですよ。」と言ったら、
「○○さん(私を紹介してくれた友人)からも同じようなこと言われた!(笑)」

それからというもの、施術するたびに彼女は明るさを取り戻していった。
「最近、表情が明るくなったって言われるのよ。」と言ったのは、3週間目くらいの頃。

そして…
「完全に痛みが取れたと言う訳じゃないけど、朝起きた時に辛いくらいで後は何とかなりそうだから、ちょっと治療休んでみますね。ダメみたいだったら、すぐに電話しますから。」と彼女が提案したのは、治療開始から35日後。それから、ずっとご無沙汰である。

彼女が元気であることを聞いたのは、それから2カ月後のこと。別なクライアントから。
「昨日、○○さんと八百屋さんで会ったよ。先生から治してもらったって。寝たきりになると思ってたんだけど、助けてもらったって。それは良いんだけど、孫の話とか、親戚の話とか、話が止まらないのよ。立って聞いてるだけで、こっちは大変だったよ。」

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