その日、秋葉さんは近くのスーパーに買い物に行ったと話してくれた。

久しぶりのことだったらしい。もしも、秋葉さんが女性で、娘と二人暮らしというパターンだったら、毎日のように一緒に買い物に出かけたことだろう。しかし、男には、気分転換に買い物に行くという発想は起きにくいようだ。

買いたい物があってお店に向かい、目的の売り場に真っ直ぐ脇目も振らずに進み、物が見つかればそれだけを持ってレジに向かう。「男の買い物」とはそういうものとされている。ミッションであって娯楽ではない。

尤も、それも変わりつつあるかもしれないが、秋葉さんはどうみても昔のタイプの男だ。

彼のことだから、おそらくカートに身を預けるように寄りかかり、売り場を回ったに違いない。足が悪いのは一目で分かる歩き方。レジの女性が買った物を運んでくれたという。

「親切だった。良い世の中になったものだ。」

昔と違う世の中を見て驚く浦島太郎のようだった。でも、彼はそれを嘆く浦島太郎ではない。彼は、現状を喜べる浦島太郎だ…と、その時の私は信じて疑わなかった。

「若い者に苦労をかけるな…」と彼はつぶやいた。

「そんなことないですよ。今まで秋葉さんたちが苦労してくださったんですから、当然のように甘えて良いんですよ。」

私は秋葉さんの言葉に、重い意味が隠されていることに全く気付かなかった。

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