ある日、秋葉さんを訪問すると、彼は新しい座椅子に座っていた。他のお客様のところで見たことがあるので、すぐに分かった。介護用の座椅子である。ひじ掛けのところにレバーが付いていて、これを操作すると電動で昇降する。立ち上がる時に座面を上げれば、秋葉さんのように足が痛い人はとても楽である。

「新しい座椅子ですね!?」と言うと、秋葉さんは得意げにニヤリとした。

少し前から介護保険の手続きを進めていて、やっと座椅子を安く借りることができるようになったとのこと。オムツも入手できたらしい。

「良い世の中になったもんだ…」と彼はつぶやいた。

しかし、それから数か月後のこと。この座椅子が無くなっていて、以前使っていたシンプルなものに変わっていた。

「座椅子はどうしたんですか?」と尋ねてみると、急に借りることができなくなったとのこと。

正確なことは分からない。ただ、介護保険の財政が厳しくなったので、基準を見直すというような話が巷で言われていた。

それから、こんな噂もあった。秋葉さんの家から数軒先の家に老夫婦が住んでいて、介護認定を受けていた。ところが、たまたま市の職員が様子を見に訪問したところ、立つこともままならないはずのお婆ちゃんが木に登って作業をしていた。それで介護認定が取り消しになった。それがきっかけで、認定状況を厳しく見直すことになったというものだ。

秋葉さんは、嘘の申告をするような人ではない。彼には電動昇降の座椅子が必要だった。噂が本当であれば、とんだとばっちりを受けたことになる。

今になって思うと、秋葉さんの気持ちが変わっていったのは、この出来事あたりからのような気がする。しかし当時の私は、彼の様子から何も読み取ることができなかったのだ。

「訪問日記」一覧

◆◆◆鍼灸治療室.トガシ◆山形県東根市◆◆◆