*** Mother waited expectantly for her son going home. ***

スエさんの家の茶の間の壁にかけてあるカレンダーには、「医者」とか、「植木屋」とか、「時計屋」とか、「壁屋」とか、ところどころに書き込みがある。お医者さんには二人でタクシーを使って出かけていたが、それ以外は皆ここを訪れる人たち。私が訪れる日には「はりきゅう」と書いてあった。

話題に困った時は、これを見て質問すれば良かった。

「今日は植木屋さんが来るんですか?」と尋ねると、「そうなのよ。」と言って、庭木の手入れを頼んでいること、その木々の種類、その木を誰からもらったか、あるいはどこで買ったか、などなどをスエさんは話してくれた。

時計屋について尋ねると、片づけをしていたら何かの記念にもらった懐中時計が出てきたけど動かなくなっているので修理を頼んだことを話してくれた。

壁屋は、部屋の壁が傷んできているし、色も気に入らないので、直してもらうとのこと。

そして、そのカレンダーの横には、それぞれのお店の電話番号を目いっぱい書き込んだ紙が貼ってあった。

いささか不用心のような気もしたが、この家の経済活動とその取引先の情報は、この一角に集約されているのだった。

今度の連休のところには「健一」と書いてあった。
「健一さんというのは、ひょっとして鎌倉に住んでいる息子さんですか?」と尋ねると、スエさんは「そうなのよ。」と答えて、いつもより嬉しそうに話し始めた。

市役所に勤めている息子の健一さんは、連休の度に帰省してくれている。親孝行の自慢の息子さんのようだった。もうすぐ定年退職を迎えるので、鎌倉の家を売って、こっちに家族4人で帰ってくることになっているとのこと。健一さんには娘さんが二人いて、大学生と高校生。

スエさんの目は期待に輝いており、「4人で」と言う時に語気が強まったように感じた。だからと言うのはむしろ逆なのだけれど、健一さんはこちらに引っ越してくることは無いような気がした。

今だから分かることだが、私のその予想は結局当っていた。

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