*** The hunter, who is ninety years old. ***

柴田朋子さん(仮名)の御主人の連太郎さん(仮名)が外を歩く姿は何度も見かけた。これまでも何度も見かけている。ただ、名前を知らなかっただけだ。

運転免許を持っていない彼は、健康のためというよりは買い物などの日常的な用事のために歩いているのだろう。もちろん、それが彼の今日の健康に寄与していることは自他ともに認めるところである。早い口調と機敏な動作を保って矍鑠(かくしゃく)としている理由は、ここにあるのだ。

「車を運転できなければ生きていけない」とさえ言われる山形であるが、彼を見るとそうでもないように思えてくる。

自転車に乗る姿もよく見かけた。捕虫網のようなものを自転車に取り付けている時もあった。茶の間のテーブルの上の水槽に入れる魚を捕まえに行っているであろうことは容易に想像できた。

そう言えば、イバラトミヨ(山形県指定天然記念物:絶滅危惧種)を知らずに捕まえようとして、通りがかりの人に怒られたという失敗談をしてくれたことがある。アラウンド90ながら、彼はまだ、少年の心を持った狩人なのである。

そんな連太郎さんから、一年ぶりに電話がかかってきた。

「先生、お久しぶりです。御無沙汰して申し訳ありません。今日、何時でもいいですから来てもらえませんか?何だか歩けなくなったんです。」

一人暮らしのお年寄りにとってはかなり深刻な事態のはずなのだが、律義な挨拶は忘れない。古き良き日本人である。

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