「新・人体の矛盾」の「7 耳の歴史」を読みました。(小林教室収蔵

「耳の中がけいれんしたことがある」という方の体験談。飛行機に乗って気圧が変化したあたりから耳が変で、何だかスッキリしないなーと思っていたら、突然「バタバタバタバタ」と物凄い音がするようになったとのこと。耳鼻科を受診したら「耳の痙攣」と言われた…。

これは、耳小骨についている筋肉の痙攣と思われます。

音を感じ取るのは鼓膜ですが、この振動は耳小骨に伝わります。耳小骨は、この振動を増幅して内耳に伝えるアンプのような装置です。ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨で構成されますが、てこの原理で増幅するというメカニカルな構造なのです。ツチ骨とアブミ骨には小さな筋肉が付いていて、これがボリュームの働きをしています。大きな音を聞いた後、しばらく耳が遠くなるのは、しぼったボリュームが元に戻るまでに少し時間がかかるから。

このアブミ骨筋は、絹糸の糸くずほどの大きさで、人体の中で最も小さい骨格筋だそうです。

爬虫類(両生類や鳥類も同じ)には耳小骨は一つしかなくて、哺乳類のアブミ骨に相当するものです。では、ツチ骨とキヌタ骨は何だったのか?というと、アゴの関節を構成している骨だったのだそうです。

爬虫類のアゴの構造は複雑なもので、哺乳類に移行する時、単純化するとともに力学的に合理的な構造に進化しました。この時、ツチ骨とキヌタ骨はあぶれてしまったんですね。

ところが、爬虫類は地面からアゴに伝わる振動を音として感じ取っていたので、アゴの骨は骨伝導による耳の働きもしていたわけです。アゴとしては失業してしまった2つの骨は、耳としての仕事に専念することになったわけです。

人間も骨伝導で音を感じ取ることができますが、コウモリやイルカは中耳と内耳が頭蓋骨から遊離しているので骨伝導の音は感じません。その代わりに、かれらは超音波を聞くことができるというわけです。

爬虫類時代には既に耳小骨をやっていたアブミ骨ですが、魚時代は舌顎骨だったようです。これは「さかなにはなぜしたがない」という絵本の紹介記事で触れたものです。

《つづく》