「新・人体の矛盾」の「6 手と足の由来」を読みました。(小林教室収蔵

手の起源は胸鰭、足の起源は腹鰭と考えて問題は無いでしょう。ただ、鰭の位置や数は、かつてはいろいろあったようで、棘魚類は七対もの鰭を持っていた種類(クレマチウス)もいたそうです。これが、あたかも試行錯誤を繰り返すようにして前後二対の鰭に落ち着きました。

前後二対のヒレは、体の水平を保つ働きをしていました。七対もあれば安定度は増すかもしれませんが、経済的効率が悪くなる(水の抵抗が大きくなる?)ようです。

1989年に野生のシーラカンスが遊泳する姿が撮影されたそうです。速度を上げて泳ぐとき、尾鰭を振って推進しますが、その反動を打ち消すために右前ヒレと左後ろヒレ、左前ヒレと右後ろヒレをそれぞれ組として同時に動かすことが確認されました。この交互に同調した運動が、やがて陸生の四つ足の脊椎動物の歩き方に引き継がれていったと考えられます。

最初の両生類であるイクチオステガは6本以上指があったと考えられています。ヒトの手根骨のひとつ、豆状骨が6本目の指の名残だとも言われていますが、イクチオステガの5000万年後に現れたアントラコサウルス(両生類)以降、指は大抵5本になっているようです。(一部の恐竜のように3本指になった例もありますが…)

但し、このアントラコサウルスは指の骨の数(関節の数と言ってもいいが)が違います。第一指(親指)が二個、第二指(人差し指)と第五指(小指)が3個の骨でできているのはヒトと一緒ですが、第三指(中指)は4個、第四指(薬指)は5個の骨があるそうです。

親指が短く、薬指にかけて次第に長くなっていくのは、両生類として地面を腹ばいで歩く際に都合が良かったのではないかと考えられます。

キノドントは獣形爬虫類の獣歯類に分類されていて、哺乳類的な特徴のほとんどを具えています。かかとの出っぱり(踵骨の踵骨隆起)を持っており、アキレス腱があったことがうかがえます。手の指の骨の数もヒトと同じです。

馬や牛の足のように四つ足のために特化した構造と比べると、ヒトの手足はむしろ爬虫類の手に近いと言えます。また、平爪の指、指紋、母指対向性、つちふまずや踵の発達、親指から踵にかけての前後方向のアーチなどはヒトとしての独自な発達と言えます。

ただ、手足の本数は水中で泳ぐ時の都合から決まったものですし、指の本数や形は両生類として地べたを這う時の都合で決まったものです。その後のヒトとしての独自の発達はマイナーチェンジですから、どうしてもここに人体の矛盾が発生してしまうわけです。

《つづく》