確か、宮城県で行われたNHKの歌謡コンサートだったと思う。北国の人は冬ずっと雪に覆われるがゆえに春がひときわ待ち遠しいのだ…というような話があって、「北国の春」を歌うという流れだった。

そのときは本当に雪に悩まされていたので、なるほどと、何の違和感も感じなかった。しかし、雪も日に日に減っていく今日この頃、雪が降ってくれないだろうかと願っている自分に気づく。

なぜなら、花粉を感じ始めたから。花粉よりも粉雪の方がずっとずっといいと思い始めたから。

北国でも花粉症の人は年々増えていると思う。飛散量が多いと思われる今年はさらにデビューする人も多いだろう。「春」と聞いて、憂欝になる人も増えていると思う。

もっとも花粉症にもいろいろあって、秋の人もいる。私は2月中旬から桜の開花くらいまでがひどい。だから、雪解けはむしろ憂欝。でも、妻は桜の開花くらいから始まる。桜の花がひときわ好きな妻が、桜の開花に憂欝を感じなければいけないのも皮肉な話である。

桜前線を追って角館(秋田)、弘前(青森)、北上(岩手)を旅行したこともあった。金と時間に余裕があれば毎年でも行きたい。しかしこの旅は、私にとっては終わりかけた花粉を追う旅であり、妻にとっては飛び始めた花粉の兆しを追う旅なのである。

世の中に絶えて花粉のなかりせば春の心はのどけからまし

花粉も季語になって詩に詠まれたりしているのかもしれない。この切なさを歌った演歌もいずれ出てくることだろう…