娘が言うことを聞かない時、妻は「アンポンタンになっちゃったみたいだね。よーし、アンポンタン飛んでけー!ほーら、アンポンタン飛んで行ったから、もうお利口ちゃんになったよ。ねっ?」と言います。すると、娘も言うことを聞くようになります。本当はいい子なんだけれど、たまたまアンポンタンのせいで悪い子になってしまった。「あなたは悪い子!」というレッテルを貼らずに、娘のプライドを保ったまま変心させるという妙技に、我が妻ながら感心しました。

 細木数子さんの番組で、話し方に嫌味のある相談者が出てきた時に、「あなたに邪気がある」と細木さんがおっしゃいました。「なるほど、これを邪気というのか」と、これまた感心しました。邪気というのは、霊感がある特別な人だけが感じるものだとばかり思っていました。言葉の選び方でも感じられるとすると、かなりとらえどころのあるものなのかもしれない!

 学生時代に、宮本武蔵のドラマをテレビで見ました。そこでは、「殺気」という言葉が出てきました。「殺気をビリビリと感じた」というようなセリフがあったように思います。それは、剣の達人しか感じないものだと思っていたのですが、「邪気」のように自分も感じたり発したりできるものなのではないか?と思ったら、思い当たるものがありました。それは、車の運転です。

 対向車と出会った時、まさに剣士が敵と対峙するような緊張が生じるときがあります。私は、機嫌が悪いとわざと意地悪な運転をすることが多々あります。とても危険なことなので、その都度反省するのですが、ついまたやってしまうのです。この意地悪運転は、殺気を発していることにならないだろうか?逆に、ドキッとするような危険な運転をする車に出会ったときの緊張感は殺気と呼んでいいのではないだろうか?

 武蔵は、自分の殺気を消そうと修行しました。細木先生は、邪気を無くしなさいとおっしゃいます。そして妻は、アンポンタン飛んでいけと言います。子供に限らず、大人にも人間としての成長があるはずです。そして、だんだん丸くなっていくのだと、私が子供の頃はみんな漠然と思っていたような気がします。でも、今は・・・。

 私たちは、いつからアンポンタンを飛ばさなくなったのだろう?

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