ひとり暮らしをしていた頃の経験ですが、布団を干そうと思ったら布団ばさみが無いことに気づき、近くの金物屋さんに行ったのです。昔からの商店街の中にあるお店で、何十年と店番をやっていそうなお婆ちゃんが出てきました。

「布団ばさみありますか?お布団干すとき留めておくやつ」と聞くと、しばらく考えてから、「有ります」と答えて、取りに行きました。階段を上り下りする音がした後に、戻ってきたお婆ちゃんが手にした物は、どう見てもそこの家で使っていたと思われる、少し汚れた布団ばさみでした。

 「ありません」とは絶対に言わないお婆ちゃんの、逞しい商魂に圧倒された私は、値切ることもできずに、お婆ちゃんのその場の思いつきの値段で買ってきました。そして、二度とその商店街で買い物することはありませんでした。

 これと共通するかどうか分かりませんが、生命保険のおばちゃんとか、健康食品の販売を始めた同僚とか同級生とか、その他の商品のセールスなどなど、しつこい人は嫌いです。世の中には、「いやと言えない人」が結構多くて、だからしつこいセールスも多いのでしょう。私はこれと全く反対のタイプで、買おうかなと思っても取り合えず一度は断ってしまいます。しつこいセールスには、自分でもゾッとするくらいひどい言葉で断ります。「後で刺されないだろうか」と不安になるほどに…

 だから、いくら自分が客商売を始めたからといって、相手の気持ちを無視した営業はなかなかできません。世の中には、強引に勧められるのを待っている人もいるということもわかったのですが、商売気のないセールスをしたいし、そういうセールスマンに自分は引かれます。

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